2040年問題にどう備える?地域を支える訪問診療の未来
こんにちは、ホームケアクリニック麻生の院長、井尻学見です。
前回は都市部と地域での訪問診療の現状と課題をお伝えしました。今回は、医療費や物価高騰といった現実的な問題、そして2040年問題を見据えた未来の訪問診療について考えたいと思います。
物価高騰と医療費の課題
近年の物価高騰や人件費の上昇に医療費の制度が追い付いていないという問題があります。ガソリン代や医療資材の価格が上がる一方、診療報酬は大きくは変わらず、医療機関の経営を圧迫しています。これは都市部・地域を問わず共通する課題であり、訪問診療を安定的に継続するためには、制度的な支えが欠かせません。
それでも当院では、限られた環境の中で工夫を重ね、経営努力を続けています。無駄を減らし、スタッフ一人ひとりの力を最大限に活かすことで、患者さんに必要な医療を届け続けられるよう努めています。与えられた状況の中で精いっぱい取り組むことが、結果的にスタッフはもちろん、地域医療を守ることにつながると信じています。
「持続可能な医療」として訪問診療を根付かせるには、医療費と人件費のバランスを見直すことが不可欠だと感じています。
「病院中心」から「在宅中心」へ
これまでは「病気になったら病院へ行く」というのが当たり前でした。しかし、これからは「住み慣れた場所で、自分らしく治療を受ける」ことが選択肢として定着していくでしょう。
訪問診療は決して「病院の代わり」ではなく、新しい医療の中心になる可能性を秘めています。そこに、介護も加わり、『地域包括ケア』として、患者さん一人ひとりの暮らしに寄り添い、生活の一部として医療・介護サービスを届ける。そんな役割を担える存在として、必要性はさらに高まっていくはずです。
2040年問題と多職種連携
「2040年問題」を聞いたことはあるでしょうか。
2025年に「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護需要が急増しています。そして、2040年前後に、団塊ジュニア世代が65歳以上となり、日本の高齢者数は約4,000万人に達すると見込まれています。しかし、医療や介護の需要が急拡大する一方で支える側の現役世代は減少し、人材不足がさらに深刻化、社会保障費が急増し、国や自治体の財政を圧迫することが予測されます。地域によっては医療・介護サービスが提供できない「サービス空白地帯」が広がるとも言われています。
一人の医師や一つの診療所だけで対応できる問題ではありません。訪問看護、リハビリ、薬局、介護事業所など、地域の多職種がしっかりと連携し、それぞれの専門性を活かして支える体制が不可欠です。訪問診療の未来は、この「連携の力」にかかっていると言っても過言ではないでしょう。
その上で、私自身は「かかりつけ医」としての役割をしっかり果たし、患者さんやご家族にとって真っ先に頼っていただける存在でありたいと考えています。多職種が連携して地域を支える大きな流れの中で、主治医として責任を持ち、安心して相談できる窓口になることが、これからの訪問診療に求められる姿だと思います。
おわりに
訪問診療は、これからの日本にとって欠かせない医療の柱になっていくと考えています。
人口減少、物価高騰、そして2040年問題という大きな課題はありますが、それをどう乗り越えていくかは、地域で働く私たち医療者の知恵と協力にかかっています。
「住み慣れた場所で安心して暮らせる」社会を実現するために、訪問診療はこれからも進化を続けていきます。
ホームケアクリニック麻生の井尻学見でした。
