学会発表報告|ICT活用で支える最期の希望
こんにちは、ホームケアクリニック麻生の院長、井尻学見です。
先日、当院のリハビリスタッフ神野宏樹さんが、第48回日本死の臨床研究会年次大会で、ICT活用によって多職種が連携し、終末期がん患者の希望実現につながった事例について発表しましたので、ご報告いたします。
ICT活用が支えた「最期の希望」
神野さんが取り上げたのは、終末期のがん患者が抱く「家族と温泉旅行をしたい」という希望を、どのように支えられるかというテーマです。
在宅医療では、訪問診療の医師、訪問看護師、リハビリ、ケアマネジャーなど多くの専門職が関わります。連絡先が多くなるため、電話やFAXでの情報共有は負担が大きく、タイムラグが生じやすくなります。さらに情報共有のタイミングや認識の違いにより、患者さんの希望が置き去りになることもあります。
当院では、医療・介護従事者専用の非公開SNSを活用し、多職種や他事業所間でリアルタイムに情報を共有していました。神野さんは、このICTを活用した情報共有が患者さんの希望実現にどう寄与するかを研究の目的としました。
ICTによる「迅速な情報共有」が緊密なサポートに
退院直後、患者さんは在宅酸素療法(HOT)を使用し、移動は歩行器が必要で外出は困難な状態でした。その中での「温泉に行きたい」という希望に、ご家族も大きな不安を感じていました。
しかし医学的管理により体調が回復し、訪問リハビリによって歩行状態も安定したことをきっかけに、バリアフリーの宿泊先を見つけ、旅行計画を進めることになりました。ご家族には在宅酸素療法の取り扱いや入浴時の介助を指導し、旅行中に必要な動作も獲得できるようサポートしました。
結果、患者さんは旅行を楽しみ、「最高だった」と笑顔を見せてくださいました。旅行から1週間後に体調が悪化しましたが、ご家族は「あのタイミングで行けて本当に良かった」と語っていました。
患者さんの最期にどう向き合うか
今回の事例の成功要因は、ICTによる情報共有を土台に、多職種の専門的支援と家族の主体性が効果的に連携し、最大の障壁であった患者家族の不安を具体的な安心へ転換できた点です。
終末期では、ひとつの判断が患者さんやご家族の心の支えになります。ICTはあくまで道具ですが、それをどう活かすかで患者さんの最期の時間の質が大きく変わります。多職種が同じ方向を向くことの重要性を、あらためて実感した事例でした。
寄り添う訪問リハビリへ
ICTの活用は重要ですが、それ以上に「患者さんの希望を中心にした連携」を今後も徹底していきます。神野さんは学会で自身の発表だけではなく、他の発表や講演を聞いたことをきっかけに関連書籍を購入して学習を深めようとしていました。患者さんの人生の最期に深く関わる私たちにとって、常に知識やスキルを磨く姿勢は非常に大切です。
当院も、学び続けるチームとして、スタッフ一人ひとりが成長しながら、患者さんとご家族により良い在宅医療を提供し続けます。
ホームケアクリニック麻生の井尻学見でした。
